@seppitsu: 永く、美しい夢だった。 夢の中で、僕は僕だった。 小さな桜の木の下に一人、顔も思い出せない君を待っていた。 待っていたけれど、君は来ないと知っていた。 涙の落ちる時、夢が終わるのがわかった。 薄れていく青空に半透明の月を見つけた時、 僕はようやく君を思い出した。 　起きると、まだ四時だった。夢を一つ見た。心臓の揺れるのがわかる。 　こういう夢を見ることは前からあった。何か忘れている気がして、一向に手応えのない夢の中、この愚鈍な手で記憶をもがいて、それが何か思い出そうとする。でも結局、思い出せないまま目は覚めてしまう。 　ああ、でも今日は違った。覚えている。しっかりと覚えている。こんなこと今まで一度も無かった。僕が君を覚えている。君の手も、声も、名前も、その優しい性格もよく覚えている。決して全てではないけれど、夢から醒めて、僕はまなみちゃんを思い出している。 　頼りない指が震え、そうして涙がこぼれる。なんて幸せなんだろう。 　二度と忘れないように、眠い目を擦って何度も何度も頭の中に彼女を描いた。また寝入ってしまうのが怖かった。時計はまだ四時十分だった。 　当時まなみちゃんとLINEをしていたことを思い出した。どんな話をしていたかは思い出せない。引き出しの奥から埃を被ったスマホを取り出す。そしたらもっと奥に本を一冊見つけた。表紙には「日記」とある。開くと一月ではなく四月から始まっていて、年度制のものだった。 「四月二一日(金) 血管性認知症になったので、日記を書くことにします。 よくある認知症と違って、脳出血とかが起こる度に段階的に記憶を失うらしい。怖い。前からわかっていたけど、家族以外の人の記憶が曖昧になっている。」 　日記は僕のものだった。 つづく(ハル視点一話) 読み手: @浮竹（朗読） さん #高校の頃馬鹿みたいに好きだったあの人から手紙が届いた #儚い #雰囲気

拙筆『桜の下に眠る』

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Wednesday 20 November 2024 16:04:07 GMT