@sz_hina_sz: 今までの苦しみをすべて吐き出すように泣きじゃくったあと、胸の奥に溜まっていた重苦しい塊がすっと溶けていくのが分かった。 風磨くんは私の涙を優しく指先で拭うと、子供をあやすような穏やかな顔で目元を緩めた。 「いつ水族館行く?」 不意打ちのような言葉に、私は鼻をすすりながら風磨くんを見上げた。 『いつでもいい…』 「来週なら水曜休みだよ。行く?」 『行きたい…』 「ちょっとでも食べなよ」 そう言って作ってくれたのは、温かいうどんだった。 湯気の立つお碗が目の前に置かれ、私は添えられた割り箸を取って持ち上げようとした。 けれど、うどんを掴もうと指先に力を入れた瞬間、手に力が入らずポロリとお箸から麺がこぼれ落ちてしまう。 あれ……? 指先が思うように動かない。 違和感を覚えて両手を固く握ったり開いたりしてみると、手の甲から指関節にかけて、じわじわと嫌な強張りと腫れぼったさがあることに気づいた。 「手に症状出た?」 私の動作をじっと見つめていた風磨くんが、低い声で問いかけてくる。 『うん』 「最近手ってあったっけ?」 『子供の頃はあったけど大人になってからはない…』 「とりあえず今は何もしないでゆっくり休みな…仕事も最低限にしなよ」 『うん…』 『フォーク持ってくる…』と私はお箸を置いて立ち上がろうと腰を上げかけた瞬間、キュッと手首を強く掴んで引き止められた。 『ん?』 振り返ると、風磨くんが私のお碗とお箸を持ち、少し詰めて私の目の前に座り直していた。そして、お箸で一口分のうどんをすくい上げると、私の口元へと差し出してきた。 「はい」 『え!いいよ!』 突然のことに顔がカッと熱くなり、私は思わずのけぞってしまう。 けれど風磨くんは平然とした顔で微笑んだ。 「子供の頃も手が腫れた時こうしたよな(笑)」 『やってくれた…』 子供の頃、手がパンパンに腫れてスプーンすら持てなかった私に、こうしてご飯を食べさせてくれた記憶が蘇る。 ニヤっと笑った風磨くんは、逃がさないとばかりにそのまま私の口元へうどんを運んできた。 「美味しい?」 『おいしい…』 「はいもう一口」 『いいよもうフォーク持ってくるよー』 恥ずかしさでバタバタと手を振る私を見て、風磨くんは可笑しそうに目を細めた。 「子供の頃さ、これでピーマン口に入れたら泣いたの覚えてる?」 『覚えてる…(笑)』 「まだ食べれない?」 『もう食べれるよ!(笑)』 ふざけ合いながら交わす昔話に、自然と笑顔がこぼれる。 「大人になったんだな(笑)」 『ちゃんと大人だよ!今年で27なんだけど…』 「〇〇が27かぁ。そりゃ俺もおじさんになるか」 『ふーまくん32?』 「誕生日が来たらね」 『大人だ…』 「だろ?(笑)」 風磨くんはフッと満足そうに笑うと、また一口、優しくうどんをすくって私の口元へ運んでくれた。 『もういいってー』 さすがに恥ずかしさに耐えきれなくなり、私はなんとか立ち上がってキッチンからフォークを取ってきた。フォークを持ち、ぎこちない手つきで自分でうどんを食べ始める。 そんな私の様子をじっと見守っていた風磨くんが、急に真面目な顔になって呟いた。 「薬打っときなよ」 発作が起きた時、進行を止めるために自分でお腹に打つ注射のことだ。 『…うん』 注射器を取り出し、準備をしようとしたとき、風磨くんがすっと右手を差し出してきた。 「貸して」 『え!大丈夫!自分でやる!!』 「その手で打つの見てる方が怖い(笑)俺がやった方痛くないでしょ。ベッド横になって」 拒む間もなく注射器を取られ、私は促されるまま寝室のベッドに背中を預けた。 「ちょっと服あげて」 『うん……』 照れくささを誤魔化すように、私は思わず顔を背けて反対側の壁へと目を逸らした。 風磨くんはアルコール綿で私のお腹を優しく拭うと、注射を打つ位置を確かめるように指先で肌をすっと軽くなぞった。 ひんやりとした指先が皮膚を滑る感覚がたまらなくくすぐったくて、そしてどこか甘い緊張感に息が止まりそうになり、私はキュッとお腹に力を入れて身体を硬くさせてしまった。 ちくっと小さな痛みが走り、ゆっくりと薬液が入っていく。 「そんなビビリなのによく普段自分で打ってるな(笑)」 注射器を抜いてガーゼで押さえながら、風磨くんはおかしそうに目元を緩めて笑った。 ビビってると思われただけだった。よかった… 「じゃあ俺帰るわ、もし悪化したら連絡して」 『あ、うん。ありがとね!』 そう言いながら上着を羽織る風磨くんの後ろを追いかけ、私は立ち上がって玄関まで一緒に行く。 玄関で靴を履いた風磨くんは、ドアノブに手をかけたところでふと足を止め、心配そうにこちらを振り返った。 「ちゃんと寝なよ」 『…うん』 「じゃあね」 『ありがと…』 静かなドアの開閉音とともに風磨くんが去り、足音が廊下の向こうへ遠ざかっていく。 風磨くんがいなくなった部屋は急に広く感じられ、かすかに残る彼の香りだけが空間に漂っていた。 私はそっとドアに背中をあずけ、風磨くんの指先が触れていた温かいお腹を上から優しくさすりながら、静かに目を閉じた。 ____ 水族館に行く日、風磨くんが車で迎えにきてくれた。 風磨くんに会うときはいつも病院ですっぴんだったし、久しぶりに髪を巻いてメイクをした。 「あ、おしゃれしてる」 『…たまには』 「初めてちゃんと大人にみえた」 『どういう意味!?』 「かわいいってこと」 『…え』 「あ、照れた?(笑)最初にクラゲから行く?」 『最後にする!』 「まわってる間に体調悪くなったらどーすんの?最初に行っといたら?」 『そっか…そうする』 私たちは真っ先にクラゲしかいないエリアへと向かった。 足を踏み入れると、そこは日常を忘れるほど真っ暗な部屋だった。 その幻想的な暗闇の中に、青やピンク、紫の美しい光で鮮やかにライトアップされた無数のクラゲたちがゆらゆらと浮かんでいる。 こんなにたくさんの、生きているクラゲを見たのは生まれて初めてだった。 『すごい…』 思わず漏れた感嘆の声とともに、私はまるで子供に戻ったような心地で、ひとつひとつの水槽を小走りで見て回った。 浮遊する触手や、透明な体が光を受けてきらめく様にすっかり目を奪われてしまう。 『ねぇふーまくん見て!!!これちっちゃい!!』 水槽にピタリと顔を近づけ、指をさして呼びかけると、後ろから風磨くんが追いついてきた。 「ほんとだ。かわいいなー。なんかめちゃくちゃでっかいのもいるらしいよ」 『…調べてくれたの?』 展示の順番や種類まで知っている風磨くんに驚いて見上げると、彼は少し照れくさそうに視線を泳がせた。 「どうせならクラゲが1番いる方がいいじゃん?」 『ありがと!!!』 心からの感謝を伝えると、風磨くんは「あ」と思い出したように上着のポケットへ手を突っ込んだ。 「見てこれ」 風磨くんの手のひらに乗せられていたのは、ピンク色のクラゲの折り紙だった。 『え!クラゲ!』 「思い出した。クラゲの折り紙あげた時のこと。俺が見てた図鑑だよな?」 ____ 私は忘れたことがなかった。 クラゲという生き物の存在を、私は6歳の頃まで知らなかった。 病院に置いてある絵本を全部読んでしまって退屈を持て余していたとき。 小学生だった風磨くんが、夏休みの宿題なのか海の生き物図鑑を開いていた。 『これ何?』 「クラゲ」 『魚…?』 「魚ではないな(笑)」 『かわいい…本物見てみたい…おっきいのかな?』 「ちっちゃいよ。これくらい」 風磨くんは図鑑から目を離し、小さな私の目の前で両手のひらを丸めて、大きさをつくってみせた。 『見たいなぁ…』 その翌日、風磨くんが病室にやってきた。 そして「ほら」と差し出された私の手の上に置かれたのは折り紙で作られたクラゲだった。 「〇〇だけのクラゲ!」 そう言って、優しく微笑んでいた風磨くんの顔を、私は今でも鮮明に覚えている。 ______ 目の前にある折り紙のクラゲと、水槽の中でゆらゆらと光を纏って揺れる本物のクラゲ。 あの頃の温かい思い出と今の時間がひとつに重なり合った。 『…ありがと!』 込み上げてくる涙をぐっと堪えて微笑むと、風磨くんは少し照れたように鼻の頭をかいた。 もらったピンク色の折り紙を、青くライトアップされたクラゲの水槽にかざしてみた。 ガラスの向こうで揺れる本物のクラゲと、手のひらの中の折り紙のクラゲ。 嬉しくて、溢れるような笑みが自然とこぼれ落ちる。 カシャっと小さなシャッター音が暗闇に響いた。 驚いて振り返ると、風磨くんがスマホを手に掲げたまま、画面を見てフッと目を細めていた。 「子供みたい(笑)」 『ちょっとー! 消してよー!』 「やだよ(笑)」 私たちはしばらくクラゲのエリアに留まり、静かで幻想的な空間を心ゆくまで堪能した。 巨大な大水槽を泳ぎ回るエイや魚たちを見上げたり、可愛らしく歩くペンギンたちに歓声をあげたりしながら、久しぶりの自由で楽しい時間を満喫していた。 こんな風に、普通に過ごせる日が増えたらいいのに…… 風磨くんの横顔を見つめながら、そんな淡い願いを抱いていた、その時… 歩きながらふと指先を握り込もうとした瞬間違和感が走った。 数日前に自宅で出たあの発作と、まったく同じ感覚だった。 歩幅が少し緩んだ私に気づいたのか、隣を歩いていた風磨くんがすぐさま足を止める。 「どうした?」 『手が…』 「車行こ」 風磨くんは大きな手で私の右手を迷いなく包み込み、そのまま出口に向かって歩き出した。 「え…」 手の腫れよりも、手を握られているという事実に、私の意識は完全に奪われてしまっていた。 力強く私を引っ張っていく背中を見つめながら、バクバクと跳ねる胸の鼓動をどう隠せばいいのか分からず、ただ引き寄せられるように彼についていくことしかできなかった。 #菊池風磨 #timeleszで妄想

妃凪-hina-
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Friday 09 October 2026 11:20:58 GMT
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Comments

hiro35226
HiRo :
風磨カッコよすぎです💜💜💜💜
2026-10-09 12:25:00
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muscat._.2
muscat._.2 :
こんばんは、最近見始めました🌙ストーリーがとても好きです!応援してます!
2026-10-09 12:04:37
0
apple91922
apple91922 :
風磨先生も将生も好意があるのか気になるところ🤭
2026-10-09 12:21:57
0
paradckrjbz
ひまわり :
あぁ好き…💜そして続きの展開が読めなすぎて話が気になりすぎて1日が早い🫪
2026-10-09 13:20:34
0
user5302006287130
ゆずぽんず :
こんなん好きにならない方が無理ぃ…😭😭😭💜💜💜折り紙折ってるふーま先生想像したら可愛くてしんどい…折り紙買ってるふーま先生たまらんです
2026-10-09 12:04:03
0
yuki_0716_0627
yuki716 :
ふま先生…幸せにしてやって下さい😭💜でもまさきにも支えてほしい…寺西先生はなんなんだーーー‼️
2026-10-09 12:42:43
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