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SHARI
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Friday 16 October 2026 22:32:45 GMT
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居酒屋を出ると、夜の冷たい空気が火照った頬に心地よかった。 『ごちそうさまでした…ごめんなさい私だけ…一応先輩なのに…』 「全然飲んでないし食べてないじゃん。いいよこれくらい」 「あ〜楽しかった〜! △△ちゃん、送ってこっか?」 店を出るなり、寺西先生が少しお酒の入ったご機嫌な声で聞いてきた。 自然と「△△ちゃん」に変わっていた。 『あ、私病院の職員寮。近いから大丈夫です』 私がそう答えると、ふたりが顔を見合わせた。 「え、マジ? 俺たちも寮だけど」 「女性看護師ほぼいないって聞いてたのに(笑)」 『先週引っ越したんです。もう一個の寮にいたんだけど、家賃上がるっていわれて…どうせ同じ金額になるなら新しくて病院に近いこっちにしようと思って!応援頼まれたときすぐ行けるし、普通に借りるよりいい物件に安く住めるし、いいことしかないのになんでみんな住まないのかなー』 菊池先生が声をあげて笑う。 「普通はそれが嫌だから別のとこに住んでるんじゃない?(笑)」 「…そっか。行きたいのは私だけか…」 「普通はそう(笑)」 寺西先生が私の隣に並ぶ。 今までずっと、夜勤明けも日勤終わりも一人でトボトボ歩いていた夜道。同じ職場の同世代とこうして並んで歩いて帰るなんて、なんだか不思議な感覚だった。 夜風を感じながら3人で歩く。 現場でのギスギスした空気とはまるで別世界のように、たわいもない雑談をしているとあっという間に見慣れたマンションのエントランスが見えてきた。 エレベーターに乗り込み、行き先ボタンを押そうとすると、 「何階?」 と菊池先生に聞かれた。 『5階』 「俺ら4階」 4階に到着し、ポーンと電子音が鳴る。 扉が開いてふたりが降りかけたところで、寺西先生がハッとしたように振り返った。 「あ、そうだ。LINE交換する?」 菊池先生もスマホを取り出す。 提示されたQRコードを順番に読み取り、画面にふたりのアカウントが表示される。 「ありがと。また飲もうね」 寺西先生が柔らかく微笑む。 「またね」 菊池先生が手を振った。 『……なんか、すごい1日だったなぁ』 ベッドに倒れ込みながら呟く。昨日までの孤独が嘘みたいに、胸の奥がじんわりと温かかった。 翌朝、マンションを出て病院までの道のりを歩いていると、後ろから足音が近づいてきた。 「〇〇さん、おはよ」 『菊池先生! おはようございます』 振り返ると、菊池先生が爽やかに並んで歩いてくる。私があいさつを返すと、菊池先生はニッと笑って首をかしげた。 「敬語に戻ってる(笑)」 『あ……(笑)』 しまった、と思って苦笑いする。昨日『タメ語でいい』って言ってくれたのに、咄嗟に出てしまった。 『あ、寺西先生は?』 「あいつ夜勤。しかも朝弱いから機嫌悪くてさ、一緒に行きたくないから日勤でも早く出てる(笑)」 『意外……。菊池先生の方が朝弱そうなのに』 「俺のイメージ、昨日から悪すぎない?(笑)」 『見た目がチャラそうって言っただけで、別に悪いわけじゃ……(笑)』 私がクスッと笑うと、菊池先生が不意に足を止めて、目を丸くして私を見つめてきた。 『……? なんかありました?』 「……初めて笑ってんの見た」 『え……そんな笑ってないかな……』 「笑ってる方がかわいいよ」 『え……』 心臓がドクンと大きく跳ね上がる。不意打ちすぎる言葉に固まってしまった。 菊池先生は何事もなかったように歩き出し、ふたりと並んで病院へと向かった。 病院に着き、まずは看護師同士で朝の申し送りを済ませる。 その後、救急科全体でのカンファレンスに入り、昨日の爆発事故で運び込まれた患者さんたちの経過が共有された。 昨日重症で運ばれた方のうち数名が亡くなったという。 その中には、私と菊池先生が処置に入った患者さんも含まれていた。 あの爆発の惨状と、必死に命を繋ごうとした昨日の光景が脳裏に蘇る。 隣を見ると、菊池先生も寺西先生も、厳しい表情で静かにモニターのカルテを見つめていた――。 ホワイトボードの「死亡」の二文字に、私の視線が吸い寄せられた。 昨日、私と菊池先生が最初に駆けつけた、 気道熱傷に気づいてその場は助かったあの患者さんだった。 カンファレンスが終わると、周りのスタッフはすぐにいつもの慌ただしい業務へと戻っていく。 菊池先生は「よろしくお願いします」といつも通りの爽やかな声で周囲に挨拶し、ポケットに手を突っ込みながら廊下へ向かった。 昨日あれだけの修羅場を経験して、目の前で失われていく命を突きつけられて、ショックを受けないはずがない。 昼休憩の時間、菊池先生が休憩室から出ていくのが見えた。屋上かな…。 私は小さく息を吸い込むと、缶コーヒーをふたつ持って屋上に向かった。 『…菊池先生』 「あ、お疲れさま」 菊池先生はいつもの余裕そうな笑みを浮かべて振り向いた。 でも、その瞳の奥には隠しきれていない暗い影が落ちている。 私は何も言わずに、持ってきた缶コーヒーを菊池先生の前に置いた。 『……昨日の患者さん、悔しいですね』 「……」 菊池先生の笑みが、ぴたりと止まった。 「俺がもっと早く気づいてたら助かった?」 私は無言で首を振った。 『…気道熱傷はトリアージの時点で気づいてもらえないと難しいです。私たちはトリアージを信じるしかないから』 私の言葉に、菊池先生はしばらく黙っていた。 「……気にしてると思って来てくれたの?」 『…はい』 「マジかー。隠せてると思ってたんだけどな」 掠れた声で漏らした言葉に、彼の本当の悔しさが滲み出ていた。 『………私も1年目そうだったから』 「……俺、何もできなかった気がしてさ。……昨日、△△さんがいなかったら、あの気道熱傷の人だってきっと目の前で死んでたんだろうな。結局朝まで持たなかったけどさ」 『まだ1年目の4月ですよ。……ここから、一緒に救える命を増やしていけばいいんじゃないですか?』 私がそう言うと、菊池先生は私を見て、どこかすっきりしたような顔で笑った。 「……そうだね。△△先輩頼りにしてます」 『……はい(笑)』 少し重かった空気は優しく溶けていき、私たちは再び、今日も運ばれてくるであろう命と向き合う準備を始めた。 --- 休憩が終わって戻ると、腹痛の患者さんが運ばれて来た。 「20代女性、持病あり。HAEの……」 救急隊からの引き継ぎの言葉が途切れないうちに、 「HAE?」 菊池先生が、今まで聞いたこともないような大きな声を出す。 いつも冷静で余裕のあるはずの彼が感情を剥き出しにしたことに、私は思わず驚いて彼を見つめた。 『なんですかそれ…』 救急で4年間働いてきて、一度も耳にしたことがない病名だった。私の困惑を汲み取る余裕もない様子で、菊池先生は素早く患者さんのベッドへ駆け寄る。 「俺専門で勉強してるから。お薬は打ちました?」 「忘れてきて…」 痛みに体を丸め、途切れ途切れに答える患者さんに、菊池先生は顔を近づけて優しく語りかけた。 「こちらで用意しますね。普段何打ってますか?」 菊池先生は電子カルテの画面を操作しながら、スムーズに何種類かの薬の名前を挙げていく。患者さんは荒い息を吐きながらも、その中に聞き覚えのある名前があったのか、弱々しく首を縦に振って自分の薬の種類を答えた。 「大丈夫ですよ。すぐ効きますからね。息苦しさはないですか?喉への症状は今までは?」 その指示に従い、私は指示された薬剤を準備した。 お腹に皮下注射を私が打った。 救急であらゆる症例を見てきたけれど、目にしたことも扱ったこともない、初めて見る注射だった。 注射が効いて患者さんの痛みが和らぎ、処置が一通り終わって廊下に一緒に出る。 『初めて聞く病気でした。なんでそんなに詳しいんですか?』 すれ違うスタッフの足音やモニターの機械音が遠く聞こえる静かな廊下で、私がそう尋ねると、菊池先生の足が止まった。 「俺が医者になるきっかけを作った病気だから」 微笑みながらそう言ったけど、どこか苦しそうに見えた。 『今日、何時までですか?』 私の唐突な問いかけに、菊池先生は少しだけ驚いたように目を見開いてから、腕時計に視線を落とした。 「……19時」 『一緒です。ご飯、行きません?』 「ふたりで?」 私が静かに頷くと、菊池先生の瞳の奥にあった暗い影が、ふっと和らいだような気がした。 なぜ誘ったのか自分でもわからない。 でも、1年目の頃の自分と重なってしまって放っておけないと思ってしまった。 誰にも頼れず、自分の無力さに打ちのめされて一人で抱え込んでいた、あの頃の私。 「大丈夫」と強がりながら傷ついていた自分を、今の菊池先生の中に見てしまったから。 19時になり、日勤の業務を終えて引き継ぎを済ませる。 ロッカーで着替えを済ませ、一足先に病院を出てマンションへと向かった。 自分の部屋に戻り、私服に着替えてからベッドの端に腰かける。 部屋の中はしんと静まり返っていて、カチカチと刻まれる時計の音だけが響いていた。 スマホを手の中でそっと握りしめる。 画面を眺めながら、彼からの連絡を待っていた——。 #timeleszで妄想 #菊池風磨 #夢小説人 #寺西拓人
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